お客さまは神様ですか? 社会問題化するカスハラ 日本と海外の現状
下記、8月25日の静岡新聞
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お客さまは神様ですか? 社会問題化するカスハラ 日本と海外の現状
8/25(日) 10:23配信 静岡新聞
増加するカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題となっています。しつような嫌がらせが原因で退職や休職に陥る労働者が増えていて、廃業に追い込まれる店舗もあり、国内企業の生産性の阻害要因になっています。「お客さまは神様」の有名なフレーズがあるように、日本のサービスは従業員の高い意識に支えられてきました。その反面、日本のカスハラの法整備は国際標準から遅れ、抑止や救済の仕組みは不十分です。「お客さまは神様」でしょうか?
抑止、救済の法整備不十分
ハラスメントに関する調査結果
茨城県のラーメン店が2022年以降、特定の客の嫌がらせを受け続けて閉店に追い込まれ、その様子を伝える店主のSNSへの投稿が全国的な注目を集めました。追加注文の繰り返しを控えるよう求めるやりとりから嫌がらせが悪化し、商品に大量のつまようじをまいて帰るなど、店員に恐怖を抱かせる行為がしつこく続いたということです。
10年ほど前には客がコンビニや娯楽施設の店員に対し、サービスへの不満を理由に長時間土下座をさせる映像が相次いでSNSに投稿され、カスハラの怖さを印象づけました。後に客が刑事罰を受けた例もありますが、店側の努力でカスハラのエスカレートを止める難しさが露呈しています。
厚生労働省が5月に公表した職場のハラスメントに関する調査結果では、「過去3年間に従業員がカスハラを受けた」と答えた企業は27%で、23%の企業が「増加した」と答えました。労組や企業の各種調査でも被害の増加傾向が顕著です。
「神様」がひとり歩き
カスハラ増加の心理的・社会的背景
客と労働者の力関係は、なぜこれほど一方的になってしまっているのでしょうか。専門家の間で多く指摘されるのは、日本人のサービス精神の高さと、法制度の遅れです。
「お客さまは神様です」のフレーズは昭和の人気歌手三波春夫さんが司会者との掛け合いの中で発し、流行したとされています。国内外の経営者に影響を与えた京セラ創業者稲盛和夫さんは「お客さま第一主義」を信条に挙げました。2人とも自著で、これらは自分自身を律するための言葉だと解説していますが、誤解とともにひとり歩きし、今もカスハラ被害の各種調査で頻出します。利用者は要求を通すために使用し、労働者には我慢の意識をもたらしている様子が見えます。
東京都は23年度に実施したカスハラ防止対策の検討会議で、専門家の研究を基に、カスハラを増加させている6項目の心理的、社会的背景を示しました。おもてなしを美徳とする文化や企業間競争の過熱でサービスの期待値が高まる一方、不祥事などによる企業への不信感が苦情のハードルを下げ、サービスが期待に沿わない場合に不満を発露させる人が増えている―といった分析です。対策がなければ、被害が今後も増える可能性を示唆しています。
国際条約 未批准
19年のILO(国際労働機関)総会で暴力・ハラスメント撤廃条約が採択されましたが、日本は未批准です。批准には労働に関するハラスメントを定義、禁止する法令を定め、労働者の権利保護の仕組みを確立する必要があり、今の日本の法令では不十分です。
日本の現行法はセクハラを禁じる男女雇用機会均等法、パワハラ防止を事業主に義務づける労働施策総合推進法などが柱ですが、カスハラは禁止する法律がありません。組織で行為者を処分できるパワハラや性差別と違い、カスハラは行為者にペナルティーを科す方法が告訴や損害賠償請求などに限られ、再発防止や被害救済に労力を要します。
厚生労働省は20年に公表した指針で、事業主に対して従業員のカスハラを防ぎ被害に対応するよう努力義務を課しました。企業向けのマニュアルを策定し、取り組みを促しています。ただ、どの行為がカスハラなのか、判断基準は「業種や業態、企業文化などで違いが出てくる」として明示せず、事業主を悩ませています。再発防止や被害救済の体制構築も事業主の負担となっていて、労組や商工団体からは法整備を求める声が高まっています。
業界、自治体で独自の対策
カスハラをめぐる法整備が進まない中、国内では企業が業界内で足並みをそろえて対策に乗り出す動きが広がりつつあります。
航空大手の全日本空輸と日本航空は6月、共同でカスハラ対処方針を策定しました。「能力の否定」「容姿のやゆ」は暴言、「身体を押す」「ものを投げる」は暴行とみなすなど、国のマニュアルより基準を具体化し、現場の従業員が判断しやすくしています。
日本民営鉄道協会は昨年12月、カスハラ対応の基本方針をまとめ、「業界全体で取り組む」と宣言しました。業界内連携は事業主にとって「対策の緩い他社に客が流れる」との懸念が解消でき、労働者も客に説明しやすい利点があります。
県内ではスーパーでレシートの担当者表記を改めたり、タクシー会社が運転者証の顔写真を外したり、企業ごとの対策が進んでいます。一方、業界内連携は議論が始まった段階で、運輸系の業界団体役員は「業界内でも会社ごとに客層や規模が違う。基準統一は理想だが難しい」と漏らします。
東京都や北海道は今年、独自のカスハラ対策条例制定を目指す方針を明らかにしました。いずれも行為者への罰則は設けない理念型となる見通しですが、カスハラを「してはならない」と明確に禁止し、企業の対策推進や被害相談を行政が担う内容になりそうです。
各国で防止キャンペーン
「誰も仕えるに値しない」を合言葉とする「SDA」のキャンペーン公式サイト
労働者に対するカスハラは海外でも社会問題になり、労働組合や非営利組織が中心となった啓発活動が近年活発化しています。
オーストラリアの小売・飲食業系の労組「SDA」などは2017年ごろから「No One Deserves A Serve.」(誰も仕えるに値しない)を合言葉としたキャンペーンを展開しています。日本のように客を「神」になぞらえる文化はないものの、特に性差別的、職業差別的な言動が問題になっていて、合言葉は「客も特別ではない」を意味します。
SDAホームページによると、23年の同国内労働者への調査で、顧客から「言葉の暴力を受けた」87%、「物理的暴力を受けた」12.5%といった被害の多さが報告されたそうです。キャンペーンは客や労働者の意識改革と、業界全体での支援を主眼にしています。
イギリスは小売・流通系労組「USDAW」が「Freedom From Fear」(恐怖からの自由)運動を展開し、23年に労働者に対する暴力や差別の実態を調査しました。公式サイトでは、労働者保護の法改正実現といった成果を紹介しています。
職場のハラスメント防止の先進性で知られるのが北欧諸国です。事業主に対する厳しい罰則、労働監督機関の強力な機能などが法令で規定され、世界の議論をリードしています。
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9月議会で野田議員が一般質問していたが、
昨年度の本町のカスタマーハラスメントは10件程度あったとの答弁。
8月からは、職員の名札は、所属と苗字のみとし、
悪質なケースは、警察や弁護士に相談しているという。
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